私は常々ハノイに四季はあるが春がないと思っている。耐え難い暑さのあの季節は間違いなく夏だし、その後にやって来る清んだ空気の涼しい季節はどう考えても秋だし、その後の寒い季節は冬としか呼べないが、冬と夏のあいだの季節は私にはどうしても春とは思えないし、そう呼びたくもない。

テトが明けて夏が来るまでのあいだハノイでは霧のような雨が連日降り続く。傘をさすほどではないが、地面はいつもじっとりと濡れているような。バイクで走るとき合羽は要らないが、帽子をかぶらないと髪がじっとり濡れるような。

もちろん晴れる日もあるのだが、晴れれば晴れたで雨の日との温度差が大きく体調がついていかない。暑いくらいの日があるかと思えば、その日のうちに上着が要るほど寒くなったり。天候が一向に安定しない。

また、この季節になると私は持病の喘息が必ず悪化する。普段は指定の薬さえ飲んでいれば喘息である事を忘れるくらい何でもないのだが、この時期になると、とたんに薬が効かなくなる。そうなると、普段は全く使わない吸引式の薬を使う羽目になる。

原因不明の熱が出るのもこの時期だ。ハノイに来て四度目のこの季節だが三年連続で体調を壊している。「いったいこの季節は何なんだ」と一人悪態を吐いている。

日本語の「春」と言う言葉に含まれている「厳しい冬が終わり、雪が解け、木に若芽がふき、野に花が咲き、やわらかな日差しで、ぽかぽかと暖かく、新しい命が息吹き、新たな一年が始まる。そして誰もが待ち望む季節」と言ったようなプラスのイメージがハノイの春には皆無と行って良い。少なくとも私にとっては。

「ベトナムの新学期は9月である。長く暑い夏休みが終わり新しい年が秋と共に始まる。日本の春と秋の持つプラスイメージの両方をハノイの秋は兼ね備えている。そしてハノイの春には秋に良いところを全て取られた残り滓だけが残っている」と言うのが私の「ハノイの春」イメージです。

いろいろ愚痴のような悪態のよな事を書かせてもらいましたが、以上は全て私の独断と偏見で書いたものであり、ハノイ人の持つ春のイメージとは一切関わりはありませんし、他のハノイ在住の方が持つ「ハノイの春」の印象とも一切関係ありません。念のために。